?今日のメニューは?Ⅱ

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高校最後の冬休み、大学も決まって人生を歩んでいこうとする俺の前に現れた、眩しい笑顔を持つ果て無き挑戦者よ。

そろそろ俺の体を労わってくれないだろうか…
流石の俺の胃袋もきっと大変な事になっていると思うんだ。
うんううんうううううううんんん…

 

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「入江く~~~ん♪」

ちくしょう、あと1分早く着替え終わっていれば、この戦いのカウントダウンを聞く事も無かっただろうに…

‘悔しい’…この感情を教えてくれた琴子…

ありがたくないけどありがとう…

「今日はね、ちょっと趣向をかえてオシャレメニューにしたんだ~♪おばさんも手伝ってくれたから完璧よ!」
「あっそ」

ん?琴子風邪でも引いたのか?ああ、興奮してるだけか。
おまえの頬をピンク色に染めた顔はなんとなく可愛…

違う!大丈夫か俺!だいぶやられてるな…。

「はい、入江君ど~ぞ♪」

その頬をピンク色に染めた琴子が差し出した皿の上には、何とも言えないマーブルな感じの乳白色っぽい液体の中に薄平っい黒い何かの欠片と、むよんとうねった何かがぼてっと円を渦巻きどっちゃっと…

この料理‐‐
いや、物体の名は

 

【カルボナーラ】

 

今日天に召された食材達よ…もう食材として生まれ変わってくるんじゃないぞ…
なんだこの熱く苦しい感情は…
遠い昔にしか流した記憶がない涙が出てきたぜ…
色々複雑すぎるが一応言っておこう

…ありがとう琴子…

 

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「入江君!お口開けてよぉ~!」
「くっ…」

目の前の琴子が得体のしれない物体にフォークを突き刺し、ぐねぐねうぬうぬぐちょぐにょと回転させながら持ち上げた。
あやしい香りと湯気の向こうに浮かぶ、琴子の満面の笑み。
毎度の事だが変な汗が背中をびっしょりと濡らしていく。
何で俺はここまでこいつに付き合ってるんだ?
ああもういい、さっさとこの悪夢を終わらせて本屋へ…

「今日はかなり自信満々!本当よ♪今回はちゃんと味見したしね~♪」
「おい待て!!今まで味見はしてなかったのか?!」
「・・・・・・・・♪」

俺の言葉に回答は返ってこず、代わりに眩しいくらいの笑みが返ってきた。
くっ!おまえ、俺を確実に殺す気だな!ラブレターを受け取らなかったお返しか!!
ふっ なかなかやるじゃないか!俺も男としてのプライドがある。
負けるわけにはいかなあぁあああい!

「入江君、はいアーン♪」

ああっ!いつもの‘アーン攻撃だ!’今日もここから戦いがはじまるのか!
俺はすでに、この攻撃をかわす事も諦めている。
何故ならば、こうしないと夜中に石鹸の香りのパジャマ妖怪が現れ、髪から滴を垂らしながら一晩中枕元で
「あ―んして…あーんして……ほら、もっとお口を大きく開けて…そう、全部よ全部、上手ね……」
年頃の男の部屋にそんな姿で現れるパジャマ妖怪よ、おまえは押し倒されたいのか?
身の燻りを誤魔化すのは辛いんだぞ!!
ごいごいだぞ!!!

はっきり言って気が狂いそうだ…

 

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妖しい湯気と共にフォークが近づいてくる…
ここだ!この距離とこのスピード!今しかない!
俺は琴子の細い手首を掴み、百八十度回転させそのままあっけにとられている口の中へ放りこんだ!

「んっくぅ…!んくぅんくんくぅうう…」
「お味はどうだよ琴子、毎回毎回こんなもの食わされてる俺の気持ちがわかっただろう?だからもうやめてくれ!迷惑なんだよ」

やった神様仏様!
そして俺のこのIQよ!
ありがとう!
くっ…また涙が……
勝った!勝ったぞ!!消えていった今までの食材達よ!この戦いの結末を見ていてくれたか!!

目の前の琴子はフォークを口から抜き取り、ムグムグとハムスターのように頬を膨らませながら平然とした表情で食べている。
……おい、おまえ味覚大丈夫か?

ほっぺをもごもごと動かし、ゴクンと飲み込んだ琴子の白い喉元。
ゆっくりと上下するその……

っ……くぅ…

俺待て!ありえないだろ!俺しっかりしろよ!今ナニを想像した!!

「…おい、口のまわりすごいクリーム(のようなよく分からない液体)がべったりついてるぞ。女らしさの欠片も無いな」
「ブーッ、れっきとした女の子だもんブーブー」

ぷっくりとした柔らかそうな唇を尖らせて、琴子は眉間に薄っすらとしわを寄せている。

ッ…そのくちっびるッ……今の俺にはッ……ッくぅううううう!!!

視線をその唇から外す事が出来ぬまま、冷静を装いなんとか声を出し、俺は脇に置いてあったひざ掛けをかけた。
如何にもついでという感じでティッシュの箱に手を伸ばす。

「ほら、拭けよ」
「ありがとう入江君♪」

この俺が親切にもティッシュを渡そうと琴子に手を伸ばしたその時、皿が傾き (よくワカラナイ)それがぼたりと俺の腕に垂れ…

ペロリぺチョリ…

あああ!なんで舐める、躊躇とか何か無いのかおまえはあぁぁぁ!ヤメロ!ヤメ…

「ん…ぺちょり…ペロペロ……美味しいよぉ♪入江くぅん」

琴子の小さな口からピンク色の柔らかい舌が出され「もったいなーい」と俺の腕を舐めている。
やめろ…それ…その舐め方…その上目使いは反則だ!

…くッ…くぅ………!

「入江君、もう一回!はい味見――!」

そう言いながら琴子は細い指先についたクリーム(らしき液体)を、俺の口元へと近づけてきた。
何故かクラリと眩暈が…

チュッペロリ

ああああッ!何故俺は琴子の指を舐めた!条件反射とはいえなぜ吸った?!嘘だ!
くうッ…ッ俺、負けるんじゃない!頑張れ!

「もういいッ!早くこの部屋から出ていけ!入ってくるな!!わかったな!」

しぶしぶたらたらぶーぶーと未練がましく歩く琴子を睨み怒鳴りつけどうにか出ていかせ、イヤミなくらいおもいっきりドアを閉めて、俺は大きな音を立てて鍵を閉めた。

 

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疲れた…
祐樹、まだ帰ってこないよな…
当分帰ってくるんじゃないぞ…
あ、ティッシュ補充しないとなぁ……

ガサゴソ…

…くッ……

負けか………

 

 

 

おわるですw

?今日のメニューは?

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最近、琴子はとある無謀な挑戦に挑みまくっている。
しかしはっきりって、意味が無い。
そんな時間があるなら勉強しろと何度心で叫んだだろうか…
その無謀な挑戦―

それは…

料理だ

母親譲り(らしい)その才能に拍手しかない。
おじさんには悪いが、一生こいつの料理は…

何があいつを動かしたのかは皆目見当つかない。
本人だって避けていた(?)筈なのに、何故だ?何故突然?突然すぎるじゃないか!
誰にどんな入れ知恵されてこの試練を!?
お前、俺の事が好きなんだろう?
だったら

 

― お願いだからやめてくれ ―

 

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この悪夢がいつまで続くのかはわからない。
「いらない」「うるさい」「めざわりだ」「めいわくだ」
その他諸々様々な言葉を山ほどぶつけているというのに、こいつの耳は全く受け付けず、全て消滅させてしまう。
ある意味それも特技なんじゃないだろうか。
もういい、付き合いきれない。
最近では‘あっちにいけ’攻撃も‘無視’攻撃もまったく効かなくなってしまった。
なのであきらめて、好きなようにさせている。

それにしてもここ一週間と二日こいつのsurvival-menuに付き合わされているのだが、びくともしない自分の胃袋に敬意を表する。

 

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ありえない……どこをどうやったらこうなる?

茶色を通り越して黒に近く、ひたひたとした粘着性のある(ような)液体の上で浮き沈みしている、ブヨブヨした大小の物体…
この料理―‐‐
いや、この物体の名前は

【麻婆豆腐】

琴子…おまえ、ある意味天才だ。

大豆(その他)達よ、よく耐えた。
心おきなく天へ召されてくれ。
いままでに散っていった仲間によろしくな…

琴子に‘同情’という感情を教わった。

 

 

…ありがとう琴子…